延命治療=無駄な医療?終末期医療と人生会議を薬剤師がやさしく解説

「日本の医療は、無駄に命を延ばしている」

SNSでは、終末期医療についてそんな意見を見かけることがあります。

でも、「治療を続ける=無駄な延命」という考え方だけで、本当に医療を語れるのでしょうか。

終末期医療では、単純に「長く生きるか、治療をやめるか」だけではない視点が重要になります。

結論から言うと

日本の終末期医療は、「何が何でも一秒でも長く生かす」という考え方だけで成り立っているわけではありません。

厚生労働省のガイドラインでは、本人による意思決定を基本として、医療・ケアチームと十分に話し合いながら、治療やケアの方針を考えることが重要とされています。

医療行為についても、

  • 開始する

  • 開始しない

  • 内容を変更する

  • 中止する

といった選択肢が示されています。

さらに、痛みや呼吸苦などの身体的苦痛をできる限り緩和し、本人や家族への精神的・社会的支援も行うことが求められています。

つまり終末期医療とは、「どこまで命を延ばすか」だけではなく、「残された時間をどう過ごしたいか」まで含めて考える医療なのです。

そもそも「延命治療」は一括りにできない

「延命治療」と聞くと、人工呼吸器などをイメージする人もいるかもしれません。

しかし、医療行為にはそれぞれ目的があります。

たとえば、

  • 心肺蘇生

  • 人工呼吸器

  • 人工透析

  • 昇圧薬

  • 輸血

  • 抗菌薬

  • 点滴

  • 人工栄養

などは、効果や負担、使われる場面がそれぞれ異なります。

治療可能な肺炎で、一時的に人工呼吸器を使用して回復し、その後に自宅へ戻れるケースもあります。

一方で、病気が最終段階にあり、治療によって回復する可能性が極めて低い場合には、治療による負担が大きくなることもあります。

そのため医療では、「機械を使ったから延命」という単純な判断ではなく、

回復する可能性はあるのか

治療によって期待できる利益は何か

身体的な負担はどの程度なのか

本人はどのような人生を望んでいるのか

といった複数の要素を考えます。

 

「治療をやめる=見捨てる」でもない

ここも重要なポイントです。

回復が難しい状態では、新しい治療を開始しない、現在の治療を減らす、終了する、心停止時に心肺蘇生を行わない、といった選択肢が検討されることがあります。

これは「何もしない」という意味ではありません。

痛みや呼吸苦などの苦痛を和らげ、その人ができるだけ穏やかに過ごせるようにすることも、終末期医療の大切な役割です。

反対に、生命を長く保つ治療がすべて無意味というわけでもありません。

「もう一度家族と話したい」

「子どもの成長を見届けたい」

「回復できる可能性があるなら治療を受けたい」

そう考える人にとって、その時間には大きな意味があるかもしれません。

その価値を、第三者が年齢や病状だけを見て「無駄」と決めることはできません。

DNAR=すべての治療をやめる、ではない

終末期医療で誤解されやすいのが「DNAR」です。

DNARは、心停止した際に心肺蘇生を行わないという意思決定に関するものです。

日本救急医学会も、DNARを理由として、心停止前の抗菌薬、酸素投与、輸液、鎮痛などまで自動的に差し控えるものではないとしています。

つまり、

DNAR=すべての医療を中止する

ではありません。

心肺蘇生をどうするかと、それ以外の医療やケアをどうするかは、分けて考える必要があります。

薬剤師として伝えたい「人生会議」

終末期になってから突然、

「どこまで治療を受けたいですか?」

と聞かれても、本人も家族もすぐに答えられないことがあります。

だからこそ厚生労働省は、「人生会議(ACP)」を推進しています。

ACPとは、将来の医療やケアについて、自分が大切にしたいことや希望を家族、医療・ケアチームなどとあらかじめ話し合っておく考え方です。

大切なのは、一度決めたら終わりではないこと。

病状や人生観が変われば、考え方が変わることもあります。

だからこそ、繰り返し話し合うことに意味があります。

「延命か、自然に任せるか」の二択にしない

終末期医療について考えるとき、

「何でも治療する」

か、

「治療を全部やめる」

かの二択にしてしまうと、重要な部分を見落としてしまいます。

本当に考えたいのは、

その治療にはどんな利益があるのか。

本人は何を大切にしているのか。

治療による負担はどの程度なのか。

残された時間をどう過ごしたいのか。

ということです。

現場に改善すべき課題があることと、「日本の医療は無駄な延命ばかり」と一括りにすることは別の問題です。

まとめ

  • 日本の終末期医療は「何が何でも延命する」だけではない

  • 治療にはそれぞれ目的や利益、負担がある

  • 治療を開始しない・変更する・中止することも選択肢になり得る

  • DNARは「すべての医療を中止する」という意味ではない

  • 本人の意思や価値観を尊重することが重要

  • 元気なうちから医療やケアについて話し合う「人生会議(ACP)」が大切

「治療する=無駄な延命」でも、

「治療をやめる=見捨てる」でもありません。

終末期医療で大切なのは、単純に「何日長く生きられるか」だけではなく、その人がどのように生きたいのかを医療・ケアの中で考えることです。

このnoteでは、SNSで見かける健康・医療情報について、薬剤師の視点から「何が正しく、どこに誤解があるのか」をやさしく整理しています。

医療を「イメージ」ではなく、科学と本人の意思という両方の視点から一緒に考えていきましょう。

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