「富裕層はコロナワクチンを打たなかった」は本当?データで見る“年収と接種率”の関係

「一般人は何も知らずにワクチンを打った」
「でも、年収2000万円以上の富裕層は危険性を知っていたから打たなかった」

SNSでは、そんな話を見かけることがあります。

確かに、身近な経営者や高所得者が「接種しなかった」という話を聞けば、「お金持ちは何か特別な情報を知っていたのでは?」と思う人もいるかもしれません。

では、実際のデータはどうなのでしょうか。

結論からいうと、「富裕層だけがワクチンの危険性を知っていて接種しなかった」という主張を裏付ける信頼できる統計的根拠は確認されていません。

むしろ、複数の研究では、高所得層ほど接種意向や接種率が高い傾向が示されています。

「年収2000万円」という数字はどこから来たのか

興味深いことに、日本には世帯年収をかなり細かく区切って、新型コロナワクチンへの接種意向を調べた研究があります。

2021年、緊急事態宣言地域に住む約1万8000人を対象に、ワクチン接種意向を7段階で調査しました。

その結果、

  • 世帯年収200万円未満:平均3.99

  • 世帯年収2000万円超:平均4.80

となっていました。

つまり、この調査では年収2000万円超の層のほうが、むしろ接種意向が高かったのです。

この差は統計学的にも有意でした(p<0.001)。

もちろん、この研究が調べたのは2021年時点の「接種意向」です。

そのため、この結果だけから「実際の接種率も同じだった」と断定することはできません。

しかし少なくとも、

「年収2000万円以上の人は危険性を知っていたので、接種しようとは考えなかった」

というストーリーとは一致しません。

実際の接種状況ではどうだった?

別の日本の研究では、2313人を対象に実際のワクチン接種状況を調査しています。

その研究では、

  • 年収300万円未満:接種済み82.7%

  • 年収700万円以上:接種済み88.2%

という結果でした。

ここでも、低所得層のほうが接種率が低い傾向が確認されています。

もちろん、年収だけでワクチン接種を決めるわけではありません。

年齢、職業、地域、医療へのアクセス、情報環境など、さまざまな要因が関係します。

だからこそ、「年収」という一つの数字だけで人々の行動理由を決めつけることには注意が必要です。

海外のデータでも同じ傾向が見られる

日本だけの特殊な現象なのかというと、そうとも限りません。

米国の大規模調査では、

  • 年収3万ドル未満:接種開始43.6%

  • 年収15万ドル超:69.4%

と、高所得層ほど接種開始率が高い傾向が確認されています。

また、CDCの地域データでも、ロサンゼルスでは最も低所得の地域で59.4%、最も高所得の地域では71.5%が接種済みでした。

国や調査方法が違うため、これらを単純に一つの数字として比較することはできません。

ただ、少なくとも複数のデータを見たときに、

「富裕層ほどワクチンを避けていた」

という一方向の結果が見えてくるわけではありません。

「知っていたから打たなかった」は、さらに別の問題

ここが、科学的に考えるうえで特に重要なところです。

仮に「年収2000万円以上でワクチンを接種しなかった人」が見つかったとしても、それだけでは、

「富裕層は危険性を知っていたから接種しなかった」

とは言えません。

少なくとも、

①富裕層全体で未接種者が多かった
②その理由が「ワクチンの危険性を知っていたから」だった

という2つを示す必要があります。

さらに、「危険性を知っていた」という部分についても、何を根拠にそう判断したのかを調べる必要があります。

「知り合いの社長が打っていない」

という個人の経験は、その人についての情報にはなります。

しかし、

知り合いの社長3人 ≠ 年収2000万円以上の人全体

です。

これは疫学でいう「代表性」の問題です。

「お金持ちは真実を知っている」という心理

なぜ、このような話は説得力を持ちやすいのでしょうか。

一つには、「富裕層」という属性そのものに権威を感じてしまうことがあります。

「成功している人は頭がいい」
「お金を持っている人は情報収集能力が高い」
「だから、その人が接種しなかったのなら何か理由があるはず」

という連想です。

しかし、年収が高いことと、医学的な知識が正確であることは別の問題です。

年収2000万円になった瞬間に、一般には公開されていないワクチンの秘密情報が銀行口座に配信されるわけではありません。

重要なのは、誰が言ったかではなく、その主張を裏付けるデータがあるかです。

薬剤師として伝えたいこと

ワクチンの有効性や安全性について、批判的に検証すること自体は大切です。

医学では、薬やワクチンについて疑問を持ち、研究結果を検証することは当然の姿勢です。

ただし、

「富裕層が打たなかった」

「富裕層は危険性を知っていた」

「だからワクチンは危険だった」

という推論には、複数の飛躍があります。

研究では、低い社会経済的状況がワクチン忌避と関連する結果も報告されています。

つまり、現時点で確認できるデータからは、「富裕層だけが真実を知っていた」という単純な説明より、所得以外も含めた複数の社会的・情報的要因を考えるほうが科学的です。

健康情報を読むときの3つのポイント

こうした情報を見たときは、次の3つを確認してみると整理しやすくなります。

①「身近な人の話」と「集団のデータ」を分ける

個人の体験は重要ですが、それだけで社会全体の傾向を判断することはできません。

②「相関」と「理由」を分ける

年収と接種率に関係が見られたとしても、「なぜそうなったのか」は別途調べる必要があります。

③「誰が言ったか」より「何を根拠にしているか」を見る

医師、経営者、著名人、富裕層など、肩書きだけで医学的な主張の正しさが決まるわけではありません。

まとめ

・「富裕層はワクチンの危険性を知っていたから打たなかった」という説を裏付ける信頼できる統計的根拠は確認されていない
・日本の研究では、年収2000万円超の層で接種意向がむしろ高かった
・別の日本の研究でも、高所得層ほど接種率が高い傾向が示されている
・米国の調査でも、高所得層ほど接種開始率が高い傾向が確認されている
・「知り合いの富裕層が打っていない」ことと「富裕層全体が打っていない」ことは別
・さらに「危険性を知っていたから」という理由まで証明する必要がある
・健康情報は、肩書きや年収ではなく、データと研究の中身から判断することが大切

「お金持ちは真実を知っていた」。

一見すると説得力のありそうなストーリーですが、科学的に重要なのは、そのストーリーではありません。

実際のデータはどうなっているのか。
その差は統計的に意味があるのか。
そして、その行動の理由まで研究で確認されているのか。

ここまで確認して初めて、健康情報を科学的に評価できます。

このnoteでは、ワクチンや免疫、食品、薬など、SNSで広がる健康情報を、薬剤師の視点からできるだけわかりやすく整理しています。

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