「コロナワクチン3回でIgG4が100%になる」は本当?薬剤師が論文を読み解く

「コロナワクチンを3回打つと、IgG4が100%になる」

「IgG4が増えると免疫がなくなり、AIDSのような状態になる」

SNSでは、そんな情報を見かけることがあります。

しかも「研究で確認された」「国立感染症研究所が発表した」と説明されると、不安になる人もいるかもしれません。

では、本当にワクチンを3回接種すると、免疫がなくなってしまうのでしょうか。

結論から言うと

mRNAワクチンを繰り返し接種した後に、スパイクタンパク質に対するIgG4抗体が増加することは研究で報告されています。

ただし、

「IgG4が増える」

ことと、

「全抗体がIgG4になって免疫がなくなる」

ことはまったく別の話です。

さらに、IgG4の増加をAIDSと同一視することも医学的には適切ではありません。

そもそもIgG4とは?

「IgG4」と聞くと、特殊な危険物のように感じるかもしれません。

しかしIgG4は、もともと私たちの体に存在する正常な抗体の一種です。

IgGには、

  • IgG1

  • IgG2

  • IgG3

  • IgG4

という4つのサブクラスがあります。

IgG4は、IgG1やIgG3などと比べて炎症や補体を活性化する力が比較的弱いという特徴があります。

つまり、

IgG4=免疫を破壊する抗体

というわけではありません。

「97.2%」という数字の落とし穴

この話で特に注意したいのが「97.2%」という数字です。

日本の医療従事者を対象とした研究では、3回目の接種から1か月後、RBDに対するIgG4が97.2%の人で検出されたと報告されています。

ここで重要なのは、

「97.2%の人からIgG4が検出された」

という意味であって、

「その人たちの抗体の97.2%がIgG4になった」

という意味ではないことです。

これは非常に大きな違いです。

たとえば100人中97人から特定の抗体が検出されたとしても、その抗体が「体内の抗体の97%を占めている」という意味にはなりません。

「検出された人の割合」と「抗体全体に占める割合」

を混同すると、数字からまったく違う結論を導いてしまいます。

IgG4が増えると、他の免疫はなくなる?

ここも分けて考える必要があります。

私たちの免疫は、IgG4だけで成り立っているわけではありません。

IgG1、IgG2、IgG3をはじめ、

  • 中和抗体

  • IgA

  • B細胞

  • T細胞

  • NK細胞

  • 補体

  • 自然免疫

など、さまざまな仕組みが連携しています。

そのため、IgG4が増えたという一つの変化だけから、

「免疫全体がなくなった」

とは判断できません。

提示された研究でも、複数回接種後にIgG4が増加する一方で、IgG1~3の反応や複数の免疫機能が維持されていることが報告されています。

「AIDSになる」という説明は別の問題

さらに、

「IgG4が増える」

「免疫がなくなる」

「AIDSになる」

という説明も、医学的には成立しません。

AIDSは、HIV感染によってCD4陽性T細胞などの免疫系が長期的に障害されることで生じる後天性免疫不全症候群です。

一方、IgG4は抗体の一つのサブクラスです。

IgGサブクラスの構成が変化することと、HIVによる免疫不全は、病態の仕組みが異なります。

そのため、「IgG4が増えた=AIDSのようになる」と結びつけることはできません。

では、IgG4の増加は完全に無意味なの?

ここも極端に考えないことが大切です。

IgG4が増加するという免疫学的変化そのものは研究されています。

その臨床的な意味については、現在も研究が続いています。

一部では、抗体の働きやブレイクスルー感染との関連なども検討されています。

しかし、

「研究されている」

ことと、

「免疫がなくなることが証明された」

ことは同じではありません。

科学では、分かっていることと、まだ研究途中のことを区別する必要があります。

薬剤師として注意してほしい「数字の変換」

今回の情報で特に気をつけたいのは、数字が少しずつ意味を変えられていくことです。

研究結果:

97.2%の人でIgG4を検出

情報発信:

抗体の97.2%がIgG4

さらに:

IgG4が他の免疫を邪魔する

最後には:

免疫がなくなってAIDSになる

このように変換されると、最初の研究結果とはまったく違う話になってしまいます。

専門用語や具体的な数字が出てくると、「科学的な話だから正しい」と感じやすくなります。

だからこそ、健康情報では、

その数字は何を表しているのか?

研究で実際に確認されたのはどこまでなのか?

を確認することが重要です。

健康情報は「研究された」だけで判断しない

研究には、

「ある変化が確認された」

というものもあれば、

「その変化が病気を起こすことまで確認された」

というものもあります。

両者は同じではありません。

今回のケースでも、

反復接種後にスパイク特異的IgG4が増える

という研究結果から、

免疫が消失する

という結論を導くことはできません。

まして、

AIDSになる

という結論を導くこともできません。

まとめ

  • mRNAワクチンの反復接種後にIgG4が増加することは報告されている

  • 「97.2%」はIgG4が検出された人の割合であり、全抗体に占める割合ではない

  • IgG4は正常な免疫反応で作られる抗体の一つ

  • IgG4が増えたことだけで免疫全体がなくなるとはいえない

  • IgG4の増加とAIDSは、仕組みの異なる現象

  • IgG4増加の長期的・臨床的な意味については研究が続いている

  • 「研究で変化が確認された」ことと「病気になることが証明された」ことは別

健康情報を見るときは、専門用語や大きな数字に惑わされず、

「その数字は何を意味しているのか」

「研究が実際に示したのはどこまでなのか」

を確認することが大切です。

科学は「怖い数字」を並べることではありません。

一つひとつの数字と研究結果を、元の意味のまま読み解くこと。

それが、健康情報に振り回されないための大切なリテラシーの一つです。

このnoteでは、SNSで見かける健康・医療情報を、薬剤師の視点から科学的に整理しています。

不安をあおる情報ではなく、**「何が分かっていて、何がまだ分からないのか」**を一緒に考えていきましょう。

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